そもそも「ADHD」とは?
生まれつき"脳の働き"に偏りがある、
神経発達障害のうちの1つ。
AD/HD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)
1.日本語訳:「注意欠如多動性障害」
2.主な特性:「不注意」「衝動性」「多動」
3.統計:
日本には300万人以上のADHD当事者がいると、専門家の間で示唆されている。すべてのADHD当事者に治療が必要なわけではない。
4.解説:
名称の意味合いに反し、注意力が欠如しているわけではない。一時的でも過剰に注意・集中しやすい面がある。自らのADHD特性をよく理解していないことで、日常生活に支障をきたしやすい。また、そのことから精神疾患を二次障害として発症しやすい傾向もある。
ADHD特性はどのように当事者へ影響するのか?
1. “不注意”
a. 注意集中が困難な場面が多く、ケアレスミスが頻発してしまう。
b. 物を無くしたり、置き忘れたりしてしまう。
c. 片付けが難しくなってしまう。
d. 段取りがしづらく、先延ばしになりやすい。
e. 約束や予定を忘れやすくなってしまう。
f. 目的のことにしか注意が払えなくなってしまう。(メリットにもなりうる)
2. “衝動性”・“多動”
a. 落ち着きづらいor体調の微妙な変化や疲労に気分が左右されやすい。
b. 次々と発想をしていくことが多く、一方的な話や不用意な発言をしてしまう状況になりやすい。
c. 感情が高ぶりやすい。イライラしやすい。
d. 衝動買いや金銭管理が難しくなってしまいやすい。
e. 早とちりしやすくなってしまう。頭の中で、連想が止まらなくなってしまう傾向がある。
f. 明確にイメージできたことを、すぐに行動・発言したくなってしまう傾向。
社会的にみるADHDの存在
a. ADHDは、DMS-5(アメリカ精神医学会)の有病率や他の大規模調査を総合的に考慮し
て、人口の3%~4%に認められるとする意見が、妥当とされる。
b. 日本の総人口で換算すると、300万-400万人と多い割合になる。
c. この有病率の高さは、医療機関だけではなく社会全体として注目する必要があるレベルを表している。
ADHD特性の程度

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「軽度」:診断を下すのに必要な項目数以上の症状はあったとしても少なく、症状がもたらす社会的または職業的機能への障害はわずかでしかない。
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「中等度」:症状または機能障害は、「軽度」と「重度」の間にある。
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「重度」:診断を下すのに必要な項目数に多くの症状がある。またはいくつかの症状が特に重度である、または症状が社会的または職業的機能に著しい障害をもたらしている。
(参考:DSM-5 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイド(新訂版))
※不安等のメンタルヘルス上の症状が強い場合、不注意や衝動性などのADHD特性が強まる傾向にあるという報告もあります。
【成人期のADHD特性について】
ADHD特性は、大きく3つの特性で現れます。
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衝動性
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多動
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不注意
「衝動性・多動」
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「多動」とは、行動面に顕著にみられる特性で、ずっと座っている・待っているといったことが困難になるものです。
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「衝動性」とは、思考の仕方・感情面の動きなどの内的な様子についての特性で、さまざまな情報(考え/感情/イメージ)が次から次へとわきおこっては消えるといったものです。思考内容または感情的反応に刺激された行動面から、観察されやすい特性です。
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多動が児童期にみられない不注意症状が優勢な特性傾向では、ADHDの診断が社会人になってからつくケースも少なくありません。
「衝動性・多動」の基本的な特性の現れ方
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素早い判断や決定をもたらしやすい。
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さまざまな発想・展開される考え・感情が、頻繁に頭の中に浮かびやすい。
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イメージしたことに基づいて、行動・発言をしやすい。
以上のことが影響して、二次的にイライラ・焦り・不安を感じやすくなると言われています。
「衝動性・多動」の特性は、感情面にも影響する
自分の感情を抑えられないような状態になることも報告されています。
情緒不安定になりやすい傾向もあり、その結果、本人でも予想・コントロールが難しくなるほど、気分や行動が変わりやすくなるケースもあります。
「衝動性・多動」の特性の現れ方[事例]
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会話中、頭の中の情報整理がおいつかないまま、一方的に話し続けてしまう。
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相手の発言が終わらないうちに、反射的に話し始めてしまう。
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じっと座っていることが必要な状況で、我慢をしつづけた結果、緊張感・落ち着きのなさが高まる(例:「貧乏ゆすり」「イライラなどの感情の高ぶり」「座ったまま頻繁に身体を動かす」)。
ストレスが強い状態では、焦燥感・切迫感が高まり、パニックになる可能性もあります。
医師たちの報告では、以下のような報告もあります。
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イライラして、相手を責めてしまう。
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確認や計画立てをとばして、衝動的な行動・判断が多くなる。
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アルコール・ギャンブルに依存しやすくなる。
ただし、経験値によって、自らの衝動性・多動をうまくコントロールしているケースも決して少なくありません。
「衝動性・多動」が高まっているときの特性の現れ方[事例]
例①:「職場で仕事に取り組むとき」
現れ方1:
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冷静に1つ1つ確認することを飛ばしやすくなる。
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慎重に調べようとしても、うまく集中できない状態によって、困難になる。
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落ち着いて計画をたてていくことが、困難になりやすく、実行中に慌てて対処することが多くなる。
現れ方2:
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すぐに完了しない仕事は、後回しにしやすくなる。
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すぐに終わる仕事や目にとまった仕事に、取り掛かりやすくなる。
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「嫌だな」という感情が反応しやすくなり、その負担から先延ばしが多くなりやすい。
現れ方3:
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メール文などの文章の意味合いを多角的に検討することが困難になりやすい。
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仕事上必要になりそうなことを、事前に想定しづらくなる傾向。
現れ方1-3の複合的な影響により、以下のようなケースにいたることもあります。
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期限に間に合わなくなる。
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ヌケ・モレが発生して、その対応に時間を要してしまうことが多くなる。
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認識のズレが発生して、やり直しになる。
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体力を消耗して、体調を崩しやすくなる。
例②:「人との関わり・対話のとき」
現れ方1
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相手の発言内容から、独自に思い浮かんだ事柄に解釈を行い、その解釈を確認しないまま発言をする傾向がある。
現れ方2
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話の意図を確認しないまま、すぐに行動に移りやすい。
現れ方3
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冷静に相手の話を確認することが難しくなり、一方的に話し続けてしまいやすい。(情報整理の苦手さが影響していることもある)
現れ方1-3の影響により、他者との認識が少しずつズレてしまい、対人間の行き違いが起きやすくなるケースもあります。
「不注意」
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ADHD特性のうちの「不注意」とは、主に「外部からの刺激により注意集中がそらされやすい」という特徴を指します。
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課題となる場面では、あることに注意をしていても、次の瞬間に別の刺激が入ってくると、最初の事柄を忘れてしまうといったことが多くあります。
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注意集中ができないわけではなく、注意集中をするための機能が、環境や生理状態、心理状態によって左右されやすくなるこいうことがいえます。これは、環境要因・生理的要因、心理的要因によっては、集中し続けられることを示しています。
「不注意」の代表的な特性の現れ方
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忘れっぽさがある。
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うまく集中し続けられなくて、困惑するまたは疲弊する。
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スケジュールの管理や調整が苦手または大胆になりやすい。
「不注意」のメカニズム
ADHD特性においては、主に下記の注意機能に定型発達との差異があります。
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「持続性」:様々な情報に対して、特定の事柄に注意を持続する性質。「選択的注意」ともいう。
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「分配性」:周囲のさまざまな刺激(耳からの情報や視覚情報)に注意を分配する性質。
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「転換性」:必要に応じて、注意集中する対象を切り替える性質。
「不注意」のメカニズムに関連する特性の現れ方(事例)
「不注意」の特性に影響された特性の現れ方には、次のような例があります。
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「持続性」:目の前の仕事に取り組み続けて7割方終わらせたところで、集中しつづけることが困難になる。
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「分配性」:新人の仕事の進み具合をみながら、自分の仕事を進めることが苦手で、新人の様子をちょくちょく見ている時は、自分の仕事に集中しづらくなり、入力モレなどが多く生じる。
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「転換性」:一度目の前の仕事を中断して、電話応対し、また目の前の仕事に集中することに努力が必要になる。
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「選択性」:集中したい作業があるが、電話の音や話し声などの音や目に入る物体に気をとられ、そちらに注意の先が奪われやすい。
1-4が複合的に影響した特性の現れ方
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「別の事に注意が奪われ、手元のモノを置き忘れてしまう」
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「頼まれていた予定・仕事を忘れる」
以上の注意機能の関係から、定型発達の脳で自然にできる「周囲全体にそれとなく注意を向けること」や「いくつかの事柄にうまく注意を分配すること」がADHD特性の脳では苦手になりやすい傾向があります。
ただし、興味のあることに関しては、意識が持続しやすいので、集中しつづけられるという面もあります。
また、定型発達の場合でも過労や加齢、その他さまざまな疾患からの影響としてADHDと似たような症状になることがあるといわれています。
